ハーデンベルギア(後編)

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ベンチに座っていた男の人は、寒色系の爽やかな水色のセーターを着ていた。 ……見覚えがある。 それは、お向かいにある病院に入院していた時のこと。 私がいつも、暇潰しに見ていた人だ。 「……あ」 さっき見た本の山に、昔抱いた疑問が今更になって解ける。 あの人、屋上のあのベンチに座って……本を読んでたんだ。 いつも病室からどんな人なんだろうって考えながら見てた人に、会えた。 心臓はすぐに落ち着きを取り戻したけれど、少しだけ速くなった鼓動に感動している自分がいる。 今まで会わなかったのは、うまい具合に時間がずれていたからなのか。 あの人は今も、毎日あのベンチに座って本を読んでいるのか。 やっとオレンジ色に染まり始めた空の下。 いつもは構ってもらう野良猫に目もくれず、家に帰る私は早歩きになる。 ちゃんと顔、見とけばよかった……。 今日はたまたま居合わせただけなんだろうから、と逃げてしまった自分に少しだけ後悔。 ……まぁ、あのままあそこにいても、話し掛けることも間を持たせることも出来なかっただろうし。 後悔やめた。 私はさっと頭の中を切り替えて、歩く速度も落とすと 「卵……ニラ……」 冷蔵庫で待機している食材逹を思い出しながら、沈んでいく夕日を見守った。  
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