ハーデンベルギア(後編)

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低血圧である私にとって、平日のこの時間は一番辛い。 「うわ……いつもはここ跳ねないのに……跳ねてる」 鏡の前で髪を丁寧にブローするんだけど、髪型に納得がいかないまま家を出なくちゃいけない時間になった。 「鍵……鍵……。あれ、どこやったっけ」 ヘコむ畳、ポロポロと落ちてくる砂壁。 染みの出来た天井、背比べの線が残る柱。 昔この家に、父と母、その前には祖父母が住んでいたらしい。 産まれて暫くの間は私もこの家で暮らしていたみたいだけど、あまり記憶になくて。 それでもどこか懐かしさを感じるこの家で、私は日本に帰ってきてから1人で暮らしてる。 「行ってきます」 写真立ての中で笑う母に声を掛けて家を出ると、玩具みたいな鍵で戸締まりをする。 まだ買えてない教科書、今日買いに行かなくちゃ……。 バイトのシフト増やしてもらおうかな。 木造平屋の我が家を背に、ちょいちょいと2本の指で前髪を摘まみながら学校を目指す。 これだけ天気が良いと、今日の屋上はいつも以上に気持ちいいだろな。  
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