想い人と想われ人

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「しかしこれで政景殿は毅然とした態度を殿の前で取らねばならなくなりましたなぁ」 朝信の言葉に同意する晴景であったが定満だけは突然考え込んでしまった。 「爺ぃどうしたの?」 笑っている晴景と朝信を横目に景虎は定満の顔色が変わったのに気付いて問い掛けた。 「政景殿は油断ならぬお人ゆえ....」 「定満本当に心配性だのう」 笑顔のまま晴景が言う。 室町幕府は内乱続きで権威が落ちているとは言え幕府である田舎の越後衆にしてみれば大変な事だ。 しかも幕府の決めた事に反論したり反旗を翻すと謀反人になってしまう従ってよっぽどの実力者でなければ国は収まらない。 晴景と朝信は其ほどの器量が政景に有るとは思っていなかった。 「爺ぃ心配致すななるようにしかならん!そんな心配ばかり致してると長生き出来んぞ」 景虎は其々の立場や考えを理解し思いやる事が出来る優しい女の子である。 定満は万が一の話をここで繰り広げても水を指すだけと思い止まりそれ以上政景の名を出す事は無かった。 「景虎どうじゃこの際婿養子でも貰って跡取りなどこさえてみたら」 晴景の言葉に驚いて景虎は激しく首を振って拒絶した。
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