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「御二人とも冗談が過ぎましたぞ」
定満が晴景と朝信に釘を指すと二人は揃って頭を掻いた。
部屋を飛び出した景虎は人影の無い縁側に座り太郎と口づけを交わした日を思い出していた。
『太郎に会いたい』
心で呟く景虎は長尾家当主景虎の顔では無く一人の女の子お龍としての想い人の顔であった。
一方、太郎こと晴信は村上義清の攻略を一時取り止めて甲斐に戻り本拠地の躑躅ケ館で国政に明け暮れていた。
「御屋方様失礼致します」
山本勘助がやって来た。
「勘助どうしたこんな所へ来て」
「御屋方様が御呼びだと言われまして」
晴信は正室三条の方をチラリと見て側に近づきしゃがみ込むと勘助に耳打ちをした。
「か...かしこまりました」
勘助はそう言い残すと慌てて居なくなった。
「諏訪の姫様の事ですか」
「馬鹿を申すな」
勘助の後を追うように出て行こうとする晴信に三条の方が言った。
屋敷の外で腕を組み晴信を待っている勘助の背後から玉砂利が鳴る音が聞こえた。
「先ほどは失礼しました御呼びと聞かされたので.....」
晴信は家中の者に屋敷外で勘助を待たせとけと伝えたはずだった。
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