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(あった……)
その存在を確認するだけで、急に胸が熱くなった。
この辺りは、大きなお屋敷が多い住宅街なんだけど、その中でもその家は特に庭が広くて……
(え……)
生垣の先には、何度も訪ねたことのある家があり…そして、その隣には、それよりもずいぶん新しい家が建っていた。
ふと目を遣った門扉の横には、二つの表札。
(……そうか……それじゃあ……)
僕は君の話を思い出した。
君は一人娘だから、養子を取るとか、ここでずっと両親と住むとか、昔からそんなことを言ってたっけ……
そんな話をする時の君の顔を思い出す。
少し困ったような、でもどこか嬉しそうなあの顔を……
その時、不意に人の気配がしたかと思うと、新しい方の家の扉が唐突に開いた。
そこから出てきた若い女性の姿に、僕は思わず息を飲んだ。
「……千穂……!」
はちきれんばかりの明るい笑顔……
当時とは髪の色や形、それに服装の雰囲気が少し変わっているものの…あの太陽のような笑顔は少しも変わらない。
「じゃあ、行って来るね!」
僕は彼女から目が離せずにいた。
様々な想いの入り混じった僕の心は千々に乱れ、溢れて来る感情を押さえるのがやっとだった。
彼女がどんどん僕の方に近付いて来る。
どうしよう……
嬉しくて、愛しくて……でも、それが怖くもあって……
「……ち……」
彼女の名を口にしようとしたまさにその時、僕はあることに気が付いた。
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