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僕は指で涙を拭ってその場を離れ、もう一つの場所へ向かった。
千穂が幸せなことはよくわかった。
じんわりと温まった心と共に、このまま帰りたい。
だけど、そうはいかない。
あそこにはどうしても行かなければならない。
そのために、僕はこの町に来たんだから……
(……やっぱり、辛いよ。)
向かい風に抗うかのような気持ちで僕は無理矢理足を進めた。
着いたその場所は、あの頃と少しも変っていないように思えた。
誰も気に留めることのない、ごくありふれた風景だ。
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