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そこに祖母がいるのだと少女が両手でどんなに大きいかを示しながら言う。
「モウシワケアリマセン」
そして、懐に入っていたカードを少女に差し出す。
「イドウサキハコノナカカラシカエラベマセン」
「……わかんない」
ふるふる、と首を振って、
「あ!おかね、あります。はい!」
そう言って目を輝かせると、小さなポシェットから小銭を取り出した。
手の中には硬貨が3枚入っている。
「イマハシウンテンチュウデス。リョウキンハカカリマセン」
「むー」
少女はぷくっと柔らかそうな頬を膨らませた。
そこに、ばたばたと駆け込んで来た人影がある。
「こんなところにいたの!?もお、探したのよ。さ、帰りましょう」
「あ、お母さん」
どうやらそれは少女の母親だったらしい。
女の子の手を取ると、
「すみませんうちの子が……あら」
と、言いかけて相手方転送人形と気づくとぎょっとした顔をした。
「あのね、おばあちゃんのところに行きたくてお願いしてたの」
「ま、……あのね、おばあちゃんはね……」
慌てて何か言いかけた母親の後ろから、
「すみません転送お願いしたいんですが」
と声がかかり、あらごめんなさい邪魔しちゃってと言いながら、少女の手を引いて出て行く。
「またね、ばいばい」
後ろを向いて手を振る少女を連れて。
「テンソウサキハドコデスカ?」
「えっと、○○の近く、ある?」
「オマチクダサイ」
メモリに刻まれたマップと、転送先を照合し、直線距離で一番近い場所を割り出す。
「××ガチカイヨウデス。テンソウシマスカ?」
「ああ、そこなら知ってるよ、お願い」
「カシコマリマシタ」
転送魔法を使うのは一瞬。
あっと言う間に客を向こうへ送り出し、そしてまた無人のその場所で口を閉じる。
……オバアチャンハドコニイルノダロウ。
「仕事」が達成出来なかったからと言って処分されるわけではないが、それでも少し気になった。ひとであれば心残りと表現したかもしれない。
そのことと、行き先が分からない客への対処法など、今後の課題にし、転送人形はそれらをしっかりと記憶したのだった。
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