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「……オキャクサマ。ショウショウオジカンヲイタダケマスカ」
「おじかん?」
「……スコシ、マテマスカ?」
言い直した言葉は分かったらしい。ぱっと笑顔になり、大きく何度も頷く。
そして、ひとりと一体は待った。
交代の転送人形が、待機所に送られて来るのを。
本来、魔力を通常の使役人形よりも溜めておける彼らには、交代はほとんど必要ない。数百規模の人間を転送しても平気なのだから。
交代は、百体いる仲間全員に仕事を割り振るため。
それでも州内数カ所を三交代でやってようやく何日かおきの仕事になる。今後の展開次第ではもっと忙しくなるなもしれないが、現状はそんなのんびりしたものだった。
「コウタイノジカンデス」
「ワカリマシタ」
最初にいた転送人形が、交代の転送人形に場所を譲る。
「オヤ。ワタシデハナイテンソウニンギョウニアエマシタカ」
「うん!」
こっくりと大きく頷いた少女が、隣に立った転送人形を見上げ、
「お仕事してもらうのはこのお人形さんなの」
そう答えた。
「オトクイサマデシタカ」
「コノオキャクサマニハハツシゴトデス」
そして、いつもなら仲間たちがいる場所に自らを送るのだが今日はそうせずに、
「パフェバフェコウエンマデオクラセテイタダキマス」
そう少女に宣言した。
「こっちこっち!」
「ハシルノハキケンデス」
どちらが案内されているのか分からない。
転送人形は、少女に手を引かれて公園にやって来ていた。
途端、中で遊んでいた人たちの声がざわめく。
転送人形と言う名は聞いても見たことがなかった人たちにとっては、転送人形は異様に映ったのかもしれない。
怯えるもの、警戒する者、我が子を守ろうと抱き寄せる者……反応は様々だったが、転送人形を異端として見る目が多かったのは仕方のないことかもしれない。
「とうちゃーく!お仕事ごくろうさまでした!」
そこに、少女の明るい声が響き渡る。
「ワタシハテンソウニンギョウデス。ダイジナシゴトデス」
やっとひとりの顧客の要望を叶えられた、と心なしか人形も満足そうに周りで奇妙なふたりを見守っていた人たちにはそう見えた。
……単なる錯覚だったかもしれないが。
そして、
「はい!」
「……コレハナンデスカ」
しばらく公園で何かしていた少女が駆け寄り、手にしていた花冠を差し出す。見れば少女も同じものを被っていた。
「お人形さんの頭、なんにもなくて寂しいから」
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