宝物は腕の中

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 背中を見ていると身じろぎを始め恋人は仰向けに転がった。  目がいつ開くのかとじっと観察する。  まつ毛が長い、切れ上がった二重の大きな瞳を擁する目はなかなか開かない。  そのうちすうすうと規則正しい呼吸音が聞こえてきた。  二度寝に入ったようだ。  つんと尖っているが長くはない鼻と大きい口。  小さい顔にでかいパーツが押し込まれている恋人はとてもきれいだと思う。  子供の頃からそうだった。  自分より大きくて綺麗なのに何でもわがままを聞いてくれる友人を俺は大好きだった。  いつもべったり一緒に居たし、その当時強く意識はしてなかったけれど友人に寄ってくる奴らに妨害まがいなことをしていた、ように思う。  転校すると聞いた時には猛烈に腹が立って二週間ほど無視した。  自分の気持ちをどう晴らしていいか分からなくて八つ当たりした幼ない自分に友人は泣きながら「さようなら」と言った。  なにがさようならだと思った。絶対近くに行ってやる、と思って俺はいま、ここにいる。
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