宝物は腕の中

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 しばらく見ていると恋人はううんと伸びてようやく目を開けた。  「おはよう」  そう言うと、目を強く擦った恋人が「うん」と頷いた。  何度か伸びを繰り返し二度ほど大あくびをして恋人はやっと目を覚ました。  「おはよう」と微笑む恋人の目尻が下がる。今までもこんな風に可愛らしい仕草を見せていたのだろうか。こんなに近くでじっと見たことが無かったから分からない。  恋人が起きたので、昨日買ったパンを運びカップスープを作って渡した。  二人の間には人ひとり座れるスペースが空いている。  恋人はこれ以上近寄ってこない。  今までもそうだった。  俺が近寄ると嫌そうにするのでパーソナルスペースが広いタイプなんだろうな、なんて思っていた。   今は嫌そうというよりも……なんというか、そう怯えている、そんな感じがする。  嫌なら無理に近付かなくていい。  俺は「今まで通り」ならいいんだ、恋人にもそう言った。   いいんだ、いや……今まではよかったのだけど。
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