宝物は腕の中

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 ベランダで一服している間に着替えを終えてた恋人と学校へ向かい授業に出た。  今日はバイトのある日なので恋人と別れ仕事場へ向かう。  駅前の大通りに面した居酒屋が俺のバイト先だ。勤め始めて約一月になる。  土方のバイトもたまに入るが一か月に一、二度なので金にはならない。  準備中の札が掛けてある店内入り口を素通りして、壁と同色の小さな入り口を開く。  空ケースや段ボールが端に置かれた小さな廊下を行くとstaffonlyのステッカーが張ってあるドアが見える。ドアの奥には倉庫とスタッフ控え室、調理場へ続く通路がある。  つい一週間前までフロアで注文を聞いていた。  特に失敗をした訳じゃないのだけど厨房に入れとフロアマネージャーに言われ、今は調理場に入っている。 「あ、おはよ」  スタッフ控え室に入ると椅子に足を組んで座るフロアスタッフの佐々木ふみが携帯を見ていた。 「おはようございます」 「同じ年なんだからそろそろ敬語やめてよ」  携帯から一度も目を離さず佐々木は苦笑した。 「いや、先輩だから」  佐々木は自分がバイトに入ったときにはすでにいた。何でも知っているので長く働いているんだろうけれど、特に興味がないので聞いたことはない。
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