宝物は腕の中

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   「わりーなあ、それ、明後日には部品届くらしいからさ、それまでガンバレ」    目線の先には大型食洗器。これが故障したので自分は急遽洗い場に回された。  確かに次々と汚れた食器が運ばれてくるので作業に追われるが、自分としては注文を取るよりも厨房での作業が性に合っているように思う。  それにたまに頼まれる調理補助が楽しい。仕事で楽しいというのもおかしな感じだが今まで料理をしたことが無かったせいか教えられるすべてが新鮮で興味深い。  でも今日はここから離れられそうもない。金曜日はやはり客が多い。まあ週末に客が来ないようでは飲食店として立ちいかないだろうけど。  コンスタントに運ばれてくる食器を洗っていると井戸が調理場の方から自分を呼んだ。取り合えず返事をして持っていたコップをすすぐ。  まだシンクに沈んだ食器が山とあるが、何かあったようだったので置いておこう。手に付いた泡を洗い流していると井戸が洗い場にやってきた。   「あ里見、ごめん! 今日ラストいける? 溝上休むって!」    頬を膨らませて「あいつはホントに成人したのか!」とぶつぶつ言いながらどうかな、と上目で覗かれた。ラストまで……片付けを含めて三時は過ぎる。  出来ればお断りしたい、けれどたれ目をさらに下げて窺う井戸に嫌とは言えない。   頷くと井戸は「ありがとー! さっすがさとみ~! じゃあ今から休憩行って!」と肩を叩いて戻って行った。
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