宝物は腕の中

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   調理場を出る時貰った焼きそばを手に控え室へ移動する。  作り立てのそれは食欲をそそるソースの匂いを乗せた湯気をほわほわと漂わせて、自分が空腹だったんだと気づかせてくれた。  でもまずはメールだ。  ラストまで勤務になった旨を書き送ってぐうぐうと鳴る腹を静めにかかる。  すぐに返信が来た。見ると恋人のバイトはとっくに終わっている時間だった。  今までも待ってるね、頑張って、なんて書いてあるメールを貰っていたけれど、今そういう字面を見ると胸がむず痒くなる。  なんでだろう?  友達から恋人になった、でも実際は何にも変わらない。  デートするわけでもないし、いちゃつくわけでもない。  ただ今まで通りそばに居るだけ。  自分はそれを望んでいたからそれでいいはずだった。  二人の間は確実に変わっている。  恋人はどうかわからないけど、自分は変わった。  ずっとあった気持ちが恋愛感情のような気がしてきたし、見ていると触ってみたくなった。  二人の間にある一人分の距離を埋めてみたくなった。  恋人は違うのだろうか?  大体告白って言ったって、自分が言わせたようなものだし、叶える気なんて端から持ち合わせてないようだった。  複雑な気分だ。
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