宝物は腕の中

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  「おう、なにぼんやりしてんだよ」  顔を上げると井戸が同じ焼きそばの乗った皿を片手に持ち立っていた。 「なになに、例のあの子?」  丸椅子を片手で引っ張り自分の前まで持ってくると皿をテーブルに置き座る。  上目でにやりと笑い「上手くいってないとみた」と言いながら割り箸を口と右手で割った。 「いや、上手くいってます」  もめてはいない、ただ変わらないだけで仲もいい……と自分は思う。 「うっそー、スマホ睨み付けてんじゃん」 「……そんなことは」 「ま、いいけどー」  この「ま、いいけどー」が井戸の口癖だ。ふうふうと息を吹きかけ箸で持ち上げた焼きそばを冷まして井戸は一気に口に入れた。  「やっぱおれ天才ー! このソース、おれレシピなんだぜ」  笑いながら皿の焼きそばをどんどん消費していく。多分この人もう一皿食べる気だ、いつもそうだ。 「おいおい食べれば―? 冷えたら美味くないんだって」  言われてぼおっとしている自分に気が付いた。
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