宝物は腕の中

14/22
前へ
/151ページ
次へ
   箸を動かし始めると「ヤケ酒付き合うよお」と含み笑いの顔が分かる声がする。 「……だから、」 「なになにー、先輩がきーてあげるよ?」 「いや、だから大丈夫なんですって」 「ええー!」  最後の一口を飲み込んで「なーんだ、つまんねーの」と言った井戸は皿を持って出ていった。  やっぱりもう一皿食べるようだ。  よく考えるとあの人のせいなんだ。そういう「目」で恋人を見るようになったのは。  一度だけ、ここに恋人が迎えに来たことがある。  その時自分たちが帰る後ろ姿を見た井戸が次のバイトの時に「あんたら付き合ってんだろ」と耳元でささやいた。  手を繋いで帰ったわけでもないし、甘い雰囲気を出していたわけでもない。  いつも通り、人ひとり入るスペースを開けてただ並んで歩いて帰った、それだけだった。  正直なんで分かったのか不思議だった。  それを聞くと井戸は「おれは天才だから分かるんだよ」と顎を上げにたりと笑った。  それから……あれやこれや色々と聞きもしない男同士の手技手法を教えてくれたので、それを機に一段と意識して変な夢を見るようになった。  今日も見た、あの夢。こういう場合、どうするべきなんだろう。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

854人が本棚に入れています
本棚に追加