宝物は腕の中

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 はっきりさせるとまた逃げられるかもしれない。  自分はもうすっかりその気だけど、やっぱり元に戻るものなのかもしれない。  手が触れた時の、恋人の顔を思い出す。  真っ赤になって、今にも泣きだしてしまいそうだった。 「おい、なににやにやしてんだよ、このすけべ!」  テーブルに置いてあった雑誌で頭をスパンと叩かれた。 「にやにやって」 「おう、気持ち悪いぞ、早く食べろ。店長が作ってくれたんだからな!」  にやにやするようなこと、一切考えていなかったと思うのだけど、見た人がそういうならそうだったのかもしれない。  スマホを見ると休憩時間はあと十分もない。  切り替えようと思っても切り替えられない、頭から恋人の顔が消えない。  それでも時間は待ってくれない、前の井戸を見習って食べることに集中した。
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