宝物は腕の中

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 音を立てないようにそっと玄関の扉を開ける。  それでも蝶番はキイと小さく音を立てた。  開けたとたんに鼻孔にスパイシーな香りが侵入してきた。  靴を脱ぎながらこれはカレーだと思う。  恋人が食べたのだろうか?  上がってすぐ、玄関隣の台所に目をやると、ラーメンを作る為にしか使わない鍋にカレーがある。  なにこれ、作ったんかな?  いや、今まで恋人が料理をするなど聞いたことがない。  鍋に指を突っ込んでどろっとしたルーを舌に乗せた。  うん、味はまあ普通。  冷たいから油分が凝固していて口の中がざらつく。  コップに水を注ぎ一口飲む。  シンクにじゃがいもの皮と人参の皮、玉ねぎの茶色の外皮の詰められたビニールがあった。  ……随分厚く剥いてるなあ、じゃがいも。居酒屋でバイトを始める前なら気が付かなかったかもしれない。  須賀はもっときれいに剥くかなと思いながらここに立って、じゃがいもを剥いている恋人の様子を想像する。
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