854人が本棚に入れています
本棚に追加
音を立てないようにそっと玄関の扉を開ける。
それでも蝶番はキイと小さく音を立てた。
開けたとたんに鼻孔にスパイシーな香りが侵入してきた。
靴を脱ぎながらこれはカレーだと思う。
恋人が食べたのだろうか?
上がってすぐ、玄関隣の台所に目をやると、ラーメンを作る為にしか使わない鍋にカレーがある。
なにこれ、作ったんかな?
いや、今まで恋人が料理をするなど聞いたことがない。
鍋に指を突っ込んでどろっとしたルーを舌に乗せた。
うん、味はまあ普通。
冷たいから油分が凝固していて口の中がざらつく。
コップに水を注ぎ一口飲む。
シンクにじゃがいもの皮と人参の皮、玉ねぎの茶色の外皮の詰められたビニールがあった。
……随分厚く剥いてるなあ、じゃがいも。居酒屋でバイトを始める前なら気が付かなかったかもしれない。
須賀はもっときれいに剥くかなと思いながらここに立って、じゃがいもを剥いている恋人の様子を想像する。
最初のコメントを投稿しよう!