宝物は腕の中 昭介視点

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「触られるの、いや?」 「……い、いやとかじゃなくて……」   後ろから伸びた手が、腰を撫でる。  いやらしい手つきに背筋がぴんと伸びた。 「じゃあなんで逃げるの?」  逃げてるわけじゃない、ないけど… 「……オ、オレ達これでいいのかなあと思って……」  言いたくないから語尾が小さくなる。  でも、考えて決めた。本当はもうちょっと、あとにしようって思ってたけど、もういい。 「なんで?」  さっきまでの甘い声が一変して硬くなった。  腰を触る手も止まった。 「……なんか、オレ達、付き合い始めてからぎこちなくなっちゃったよな、って思って、」 「うん」 「一緒に居ると緊張して息苦しいって思ってて、」 「……うん」 「オレはほら、あれだけど、和也はほら、違うじゃない、だから、やっぱ、友達がいいんだよなって、和也はそれでよかった訳だし、なんでこうしたかなって、だんだんそう思い始めちゃって、」 「……」 「それに和也、バイト始めたじゃない。和也今までタバコとビール代があればいいって、そんな感じだったのに。……オ、オレが、オレといるのが嫌だから、始めたんじゃないかって思って、」  「……」 「さっきも終わったってメールあったから迎えに行って驚かせようかって思ったんだけど、そしたら和也、綺麗な女の人と歩いて行ったから、オレ……」 「……」 「今までもなんかいい匂いして帰ってきたことあったし……、いや、でもいいんだ、女の人がいいもんね、分かるし。少しの間だけでも、恋人になってくれたし、嬉しかったし、オレ今度は友達ちゃんと頑張るから、ちゃんと出来るから、だから、」 「ほう」 「だから、その、こんなまんまで、その、う、浮気とか、なったらそっちのほうが後々しこりが残るかなって、だったら今友達に戻った方がまだいいのかなって、」  いつの間にか正座で壁に額をくっつけていた。 「だから、別れるって言いたいの? そうか、そうねえ」  納得したの、かな……  自分で言い出した事なのにいろんなところが痛い。  背後でギシっとまたベッドが鳴いた。
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