宝物は腕の中 昭介視点

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「なあちょっと話そうか」 「……うん」  硬かった声が、和也の柔らかくなった。 「迎えに来てくれてたんだ、自転車?」 「そうだけど」 「ありがと」  ううん、と横に振った頭を和也が優しくなでた。さっきまで無かった熱を、背中に感じる。 「カレー作ったってことは、そこまでは別れようと思ってなかった、違う?」 「……いや、でも前から、ちょっと前から考えてて、」 「そうか、……で、……さっき俺が女と歩いてたの見て言おうと決めた、って訳か」  また後ろから手が伸びて、体側をゆっくり撫で始めた。  触り方がなんだかちょっと、変な感じだ。 「じゃあ一個づついくか」 「……うん? なに? なにが?」 「まず、今日一緒に歩いていたのはバイトで一緒の人」    そんな事は聞かなくても分かる。  今、この話している一瞬、和也の脳があの女の人を考えている、そうと思うとそれだけでむかむかする。  付き合い始めて一緒に居ると息苦しいくらい緊張するようになって、まともに顔が見られなくなった。  なのに、何でも知りたいと思った。  和也の周りの総て。何一つ漏らさず。
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