宝物は腕の中 昭介視点

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「ストーカーがいるって話だったし、時間が遅いから近くまで送った。それだけ」 「それだけって……あの人、」  振り返って和也を見た。  胡坐をかいた左ひざ上に肘をついて頬杖をついていた。下から見上げる顔は無表情だった。  露骨に向けられる視線に気が付いてないのかな?  オレは少し離れた所から見ただけで分かったのに。  でも知らないなら教えたくない。  自分に好意を持っていると聞いたら、あの人を意識して、もしかしたら好きになっちゃうかもしれない。  壊そうとしている癖に、離したくないと思う。  どうせいつか失うなら今、今なら傷も浅いと小賢しいことを考えたけど、浅いも深いも傷付くことには変わりがないんじゃないかな。 「なに?」 「……何でもない」  顔があげられない。  じっと見られている。視線を感じる。  すいと顔を背け正座から膝を抱えるように座りなおした。  見られないよう膝に顔を押し付ける。  そんなオレをあやすように前から和也の手が伸びてきて髪を撫で始めた。
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