宝物は腕の中 昭介視点

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「で、何だったかな、ああバイトか、最初に金が要るって言っただろ? 金が要るんだよ」  照れ隠しみたく咳払いして和也は背を伸ばした。 「なんで?」 「……それ、聞きたかったならもっと前に聞けばよかったのに」  「ご、ごめん」  また和也が大きくため息をついた。さっきからため息をつかせてばかりだ。 「言わなかった俺も悪いのかな? どっちだろ? ……うんまあいいとして、俺達あと一年弱で卒業だろう? 留年しなきゃ」 「うん」 「卒業した後、ここ引っ越すのとかいろいろ要るだろ? 俺は昭介と、一緒に暮らそうと思ってるから、敷金とかいろいろ要るだろうと思ったんだよ」  そんな先の事まで考えていたなんて気が付かなかった。驚いたオレを一睨みして「そんな驚くこと?」と和也はデコピンした。   結構痛かった。痛いってことは現実だな、と思って額を撫でた。 「で、ああそうだ、浮気はする予定はないけど、こういうの口で言って信じてもらえるものなのかな? 女の子がいいっていうのもさ、何て言うか、女なら誰でもいいって訳じゃないし好きな人間が一番って思うんだよ」  和也はふっと微笑んだ。 「ぎこちないのも、緊張するのも、俺も一緒だ。あんまりにも自分が変わって、でもそれが凄く自然で戸惑ってる」  もう一歩前に寄った和也が両手で顔を包んで額と額を合わせた。 「もうさ、どっぷり嵌ってるんだよ。友達に戻るなんて俺は出来ない。戻りたいって言われても出来んよ」 「でも、」 「好きなんだ」  もう鼻が触れそうな距離で和也がそう言った。  不安で、いつまでもぐらぐらしていた心の芯がふわんと温かいものに包まれる。  ゆっくり目を上げると間近に見えた顔が少し笑った。
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