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「ご、……ごめ」
謝る前に口を塞がれた。
「シャワー浴びてカレーにしたい」
軽く触れて離れた口が甘ったれた声を出す。
長く一緒にいるけど、こういう甘えた感じは知らなかった。
胸の奥がとろんと温かくなる。
「うん」
「昭介自分では食べたの?」
「ううん、帰ってきたら一緒に食べようと思ってたから……あ、でも味見はしたよ、普通だった」
「そっか……ありがとな」
一昨日姉が不器用なくせにチーズケーキを焼いていた。
手伝ってと言われてアシスタントをしたのだけど、その時姉の言った『男は胃袋』のフレーズが頭にこびり付いた。
それで思いついたように作ってみたのだけど、そこは思いつき、やはり普通以上にはならなかった。
『愛情』なら必要以上に込めたのだけど。
引き起こされて一緒にシャワーを浴びた。
ボディタッチが激しくてカレーの準備にかこつけあたふたと浴室を出た。
並んで食べたカレーはやっぱり普通だったけど、和也は今まで食べたカレーの中で一番美味いと三杯も食べていた。
掃除機のようにカレーを吸い込んでいく和也を見て今度はちゃんと調べてもっと美味しいものを作ってあげたいと思った。
「ごちそうさん、また作って」
「うん」
食器を下げて洗っていると後ろから歯ブラシを咥えた和也が腰に手を回した。
「なんかいいね」
「なにが?」
「なんとなく」
言いながら大あくびをした和也につられてオレも欠伸が出た。
和也がずっと引っ付いて離れなくて食器が終わると二人で洗面台に移動して歯磨きして二人でベッドに転がった。
和也は腰に手を回したまま二秒で寝息を立て始めた。
胸に鼻を押し付けて眠る頭にキスをした。真っ黒の短髪が頬に当たってちくちくする。
それでも構わず何度もつむじに口づけた。
これからはこうやって眠るのかなそう思うと口元が緩む。
下半身が動かせなくって窮屈ではあるけれど。
穏やかな寝息を聞いているとまた欠伸が出た。
カーテンの隙間から白んだ空が見える。朝はそこまで来ている。
腕の中の幸せを抱き締めて意識はまどろみに漂い始めた。
END
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