朝はもうすぐ

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「おまたせ」  雑誌コーナーの前に突っ立っていた友人はちらりとオレを見て無言で店を出た。  感じ悪いなあ。まあ、誘いのメールをすべて断っていたのだから機嫌が悪いんだろう。今まで、友人の誘いを断ったことなど、無かったから。  広い友人の背中を見ながらいつもの道をゆく。五年、十年経ち、久々にこの道を通りながらあの頃は苦い恋をしていたな、と思い返す自分を想像しながら歩いていたらあっという間に友人宅に着いた。  友人は鍵を開けると扉に背中で押さえてオレを中へ促した。  部屋が冷えている。そして煙草臭い。  友人はスモーカーだけどこんな、部屋が曇って見えるようなことは今まで一度もなかった。 「暖房つけるよ、あ、その前に窓開けるね」 「ここ空気悪いな、ごめん」  寒いからコート脱ぎたくない。  窓を開けると冷風が遠慮する事なく入り込んでくる。  今日は雪は降らないのかな。  窓から見る空はさっきと変わらない。漆黒にキラキラと星が瞬く。  暫く窓を全開にして空気を入れ替え、オレは暖房を入れた。  ブウンと音がして温風が部屋に流れる。
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