朝はもうすぐ

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 図書館は友人宅から自転車で約20分程度の距離にある。  友人宅からだと大学やオレのバイト先であるレンタルビデオ屋の方向とは反対に位置する。  帰り、夕暮れ時のオレンジと薄紫をひと混ぜしたような空を見上げ自転車をこいでいると小石に乗り上げてぐらりとした。  幹線道路沿いの広めの歩道でよかった。  冷たい冬風に顔が痛くなってきたので途中で自転車を降り押すことにした。  ゆっくりと、でも少し目を離すと変わってしまう夕空をぼんやり見上げた。  鼻から入る空気で気管が凍ってしまいそう。  この角を曲がると友人宅の側道だ。  裏の自転車置き場に通じる細い通路に入る。  自転車を止めた時、後ろにザッと砂を踏む音が聞こえた。 「昭介」  声に心臓が跳ね上がる。振り返ると友人が大きく膨らんだスポーツバッグと紙袋を二つ持って立っていた。  そう大きくない目を見開いてオレを見ている。オレもきっと、同じ顔をしている。 「あ、おかえり」 「なん……どうしたんか? なんでここにおるん?」 「あっちの図書館に行ってきた。自転車で、」 「ああ、そうか」  友人が連れてきた故郷の訛りに頬が弛む。
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