朝はもうすぐ

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「すごい荷物だね」 「ああ、もう食べ物やらなんやらで」  紙袋を持ち上げて友人は苦笑いする。 「早かったね、帰り十日って言ってなかった?」 「ああちょっと、レポートまだだし」 「そっか、オレもだよ。だからこれ」  自転車のかごに放り込んでいた本を指すと友人はそっちを見てふにゃりと笑った。 「昭介は間に合う?」 「大丈夫かな、頑張るよ」  友人は先に進み部屋の前でポケットを探り始めた。 「あ、じゃあ帰るね、疲れてるでしょ。ゆっくり休んで」 「何言ってんの、入れよ」 「うーん、……でも」  言いよどむオレを友人は振り返る、顔はにっこりと笑っていた。 「お土産もあるぞ、ほらしょうの好きな丸いやつ」 「え、本当? ……じゃあちょっと」  『丸いやつ』とはオレが好きな友人の故郷で有名な菓子だ。丸いふわふわのケーキ生地の中にカスタードクリームがたっぷり入っている。  わざわざ買ってきてくれたのかな、それとも貰い物? 聞いてみたいけど聞けない。  会いたかった友人の広い背中をダウン越しでもいいから触りたくて「寒い寒い、早く入って」と言いながら押してみた。  ダウンは外気で予想通り冷たかった。  でも「おとっととと」とよろけながら急いで靴を脱ぐ友人がそこにいるだけで、オレの心はほわっと温かくなった。
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