朝はもうすぐ

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 レポートを提出した足で大学近くの喫茶店に向かった。  『宮田珈琲』と書かれた古い木造りの看板が店の前にぽつんと置かれているそこは外観に煉瓦がはめ込んであり二十年前はとてもお洒落な店だったんじゃなかろうかと思う。  その面影を想像は出来るがお世辞にもいま、綺麗な店と言い難い。  ドアを開けると右上に取り付けられた鈴がちりんちりんと鳴る。  店内をぐるりと見回して、会う予定の人間はすぐに見つけられた。  他に常連風のおじいさんが一人、サラリーマンが一人。  常連風のおじいさんは本当に常連らしくカウンターで店員と話し込んでいる。  四人掛けのテーブルに新聞を広げトーストを食べているサラリーマンの横を通り一番奥のテーブルに向かう。 「ごめんね、遅くなっちゃった」 「あ、いいのよう、久しぶりね。ほら座って座って」  右手を頬に当てシナを作ってしゃべり始めた新谷に苦笑しながらハーフのピーコートを脱いですすめられた席に座る。  メールがおかま口調に変わってから会うのは初めてだからちょっと戸惑う。新谷にとってはこちらが楽な姿、らしい。  座ると年配の店員が注文を取りに来たのでいつも通りカフェオレを頼んだ。  店員がある程度離れるまでそっちを見ていた新谷は急にこちらを振り返り、真顔をオレに近づけた。
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