朝はもうすぐ

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「へえ、そうなんだ。んじゃあ、気を付けて、飲みすぎないようにね」 「あ、うん」  手のひらを返したように友人は背を向け行ってしまった。  気を付けて、と心配しているような言葉だったけれど、声は氷のように冷たかった。  なんだかものすごく怒っている雰囲気だった。  友人は新谷が好きではないようだ。  好かれているのにな、と思う。人の気持ちは見えないから仕方のない事だけど。  一人になりたい、なんて思っていたくせに遠ざかる背中を見ていると追いかけたくなる。  こういうことにも慣れなきゃいけないと思う。友人はいつまでも友達でいたいと言ったけど、そういう訳にはきっといかない。  友人にはいつかまた、好きな人が出来て、いつかまた、彼女が出来る。  そのときは邪魔にならず、そして友人が思うような友達でいなくちゃならない。  角を曲がって見えなくなるまで背中を眺めていたけれど、友人は一度も振り返ることはなかった。 
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