宝物は腕の中

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  「里見くん、意外と優しいんだね」 「……意外、ですか?」 「うん、だってあんまり話してくれないんだもん」    佐々木が笑いながら自分を見上げる。  それは心外、誰にでも優しくしているつもりだ。  ぴんと張ったような空気が弛んでそれからは職場の話題で盛り上がった。   「あ、うちこっちで。すぐそこだから」 「本当に大丈夫ですか?」 「うん、あそこだもん」    佐々木が指さすのは小さなアパートだった。  一人暮らしなのかなと思う。   「あ、ねえ彼女って、どんな人?」    急な質問に面喰ってしまった。   「……え、……ええっと……綺麗で優しい人です」 「ふーん、あたしと正反対な感じ。じゃあね、ありがと」    言い終わってにっこり笑うと佐々木は飛ぶように掛けていった。佐々木はさっき指したアパートに入って行った。   少し回り道になったけれどこの時間だ、恋人はきっと寝ているだろう。   梅雨がまだ明けていないけれどここ三日雨は降っていない。でもこの独特の水気を多く含んだ空気は肌に纏わりついて気持ちが悪い。  暗い道を歩く。  先に壁を向いて眠る恋人がいるかと思うと疲れているはずの身体も軽い。   来た道を戻り、今度は自宅に続く道に出るため角を曲がった。
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