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美雪が何かを話している間、一瞬わずかに表情を固くさせたが、またいつものように笑って見せたのであった。
風のように電車は過ぎ去った。遮断機がゆっくり上がる。
「ごめん。聞こえなかったんだけど……もう一回言ってよ」
「別に! 大したことじゃないから! 忘れて」
ちょっと困った顔をしながら言う。
……あれ? もしかして怒ってる?
「ほらほら、削除削除! 余計な情報は脳みそ容量オーバーになるんでしょ!」
意味不明なことを言った後、元気良く手を振りながら踏み切りを渡って行った。
「ばいばい! また明日ね! もうすぐ高校生最後の夏休みだよ! 大いに楽しもう!」
美雪はボールみたいに弾むようにして走り去った。怒ってるというのは思い過
ごしみたいだ。だって怒らせるようなことをした覚えはないのだから。
「もうすぐって言っても……まだ五月じゃない」
その姿が見えなくなるまでしばらく立ち尽くす。
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