飴玉

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 あの笑顔の源は何なのだろう。ふと考えた。  学校も楽しくないし、家に帰ったところで美雪ににおかえりを言ってくれる家族は誰もいないのに。  彼女は高校二年の春に田舎からこの都会の高校へと転校してきた。  理由はたった一つ。 『人間観察をしたいから』。  田舎は人口が少ない。これだけの理由で成績も学費も設備も中程度の高校に通うことにしたらしい。  妙な雰囲気を漂わせる彼女を初めは皆、不思議ちゃんと親しみを込めて呼んでいたが、ある決定的な特異点を披露したことでクラス中を敵にまわした。  この前の文化祭で行われたクラス対抗の合唱大会で、あたしのクラスはおしくも二位であった。  あたしにとっても、たぶん、驟雨純平にとってもどうでもいい結果。  皆が悔し涙を流す最中、美雪だけは嬉しそうに楽しそうに笑う。  これはさすがにあたしも驚愕した。    場の空気を読めない態度に怒った女子達は、案の定、美雪に殴りかかろうとした。  あたしは止めに入ろうとしたが、その必要はなかった。  これから何をされるかわかっているにも関わらず、美雪は一瞬たりとも笑顔を崩さなかった。  まるで自分の身に何が起きても構わないような自虐的な笑み。
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