1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「わたしこの匂い、すっごく嫌いなんだよね」
そう愚痴りながら彼女――桂葉(かつらば)こよみは、小ぶりで可愛らしい鼻をつまんだ。
「これ、金木犀の香りだよね。僕は嫌いじゃないけどなぁ」
逆に僕はこの甘い匂いが割と好きで、それを態度で示すかの様に大きく鼻で深呼吸しようとして……慌てて止める。
さすがにここで大きく深呼吸したら、色々とまずい気がするのだ。
「だって金木犀ってトイレのイメージあるし、現にここにも咲いてるじゃん」
片手でブラシを持ちながら、まるでヘリウムガスを吸った時のような鼻声でこよみは言った。
同じくブラシで拭き作業をしていた僕はそれが可笑しくてついつい吹き出してしまい、結局は甘い金木犀の香りと一緒に、あまりよろしくない香りまでも盛大に吸い込んでしまう。
そして思わずむせ返る僕を見てケタケタと馬鹿にする様に笑うこよみもまた、同じように盛大に香りを吸い込んでゲホゲホとむせてしまっていた。
最初のコメントを投稿しよう!