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「……こうやって一緒に清掃活動するの、今回が最後になるかもしれないね」
そのどこか寂しさの滲む声音に、僕は床のタイルを磨く手を止めた。
そして顧(かえり)みたこよみの切なそうな表情に、僕の胸は金木犀のような甘く切ない気持ちでいっぱいになる。
僕とこよみは高校受験を控えた中学三年生。
そしてその志望校――僕は地元にある何でもない県立校だけど、こよみは両親の仕事の都合でこの町から遠く遠く離れた高校を希望していた。
僕たちはまだまだ手のかかる子供で……親の元から巣立ち羽(は)ばたく、その為の羽根がまだあまりにも未熟で……。
自由という責任を負うには、何から何までも足りなかった。
僕は何も応えられず、ただただ黙々とタイルを磨く作業に戻る。
こよみもそれっきり、口を挟む事はなかった。
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