序章 自衛隊と対峙する強敵の目的

2/17
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
1 警報。第一戦闘態勢に移行せよ。 たったこれだけの言葉で、多くの人間の背筋に寒気が駆け抜けるだろう。 それほど強力な強制力がある。 例えば、担任の男教師が「くぉらああああ! 早く自分の席に着かんかああああ !! 」と怒号するよりも。 例えば、担任の女教師が「こーらっ早く自分の席に着きなさーい!」と満面の笑みを浮かべているはずが、瞳の奥に燃え上がるような憤怒を隠しているような。 先程の男教師と比べ、言い手と微妙なニュアンスが変わっただけだが、暗黙の了解を再認識させるような強制力を女教師は掌握している。 しかし、今回のような『警報』はそれらと同等の類いではない。強弱のレベルがまるで異なる。 この『警報』は命の危険。いや、この都市に住む人類全員の命が懸かった警告である。故に、各々は強制的に自分のできる行動を速やかに遂行しなければならないのだ。 人類全員の命。天秤で測ることができない、いや、その『測る』という行為自体が許されない程の重量がプレッシャーとなり、金属の鎖となり、彼女の躰を締め付けていた。直後、彼女の頬に一筋の汗が垂れる。 この都市の自衛を目的とした組織が存在する。 自衛隊ネルフィス。 ここは、自衛隊ネルフィス東地区。 その指令室。ここの最高責任者かつ最高指令官であるのが『彼女』――天楼 光(てんろうひかり)だ。 吸い込まれるような黒を映し出すモニターを見据える。まだ、何も映し出されていない。刻一刻と動く秒針と共に迫る驚異、それが目の前まで来ているような感覚が支配する。 直感とは異なる。確定された未来に歯噛みして、強敵の総称を呟く。 「……妖魔……!」 モニターに映った微かな影。指令室に張り詰めた緊張感が爆発した。 戦場で待機している『彼ら』に、一寸の狂いもなく、確実な情報と指示を与える。 自衛隊ネルフィス東地区、最高指令官である光は、息を吸い込んだ。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!