序章

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「毒見の者にしばらくしてから腹痛や吐き気があったと聞き……緊急とはいえ、失礼いたしました」 「ううん、助かったよ。ありがとう」 もふうさは王室に戻り、右手の治療を受けていた。側にはもふうさの個人秘書となったシロップといちごムース、アルベルトや医師がいる。 ワインに毒が入っていたのだ。 未遂に終わったから良かったものの、これは何者かが魔法国王暗殺を目論んで毒を盛ったに違いなかった。 仮装コンテストは中止となった。 会場はざわめいたが…継続するわけにもいかない。まだ近くに毒を盛った実行犯がいる可能性があったからだ。兵士たちに命じて犯人を探したが…今日は平常時とは違い多くの人間がスイーツ州に集まっていて、見つける事は不可能に近かった。 数時間経った今も犯人を見つけたという報告はない。 「犯人は誰でしょうか…」 シロップが呟くと、アルベルトが首を振った。 「帝国か、列強国同盟のどこかか、あるいは国内か…。背後に誰かいるのか、個人でやったのか…まだ何も分からないな」 ハニー大陸の大半を支配するエクレール帝国と、敵対する列強国同盟。国民投票により、魔法国はどちらにも属さない事になった。 中立の立場を取ったのだ。 中立で味方をしてくれる国もいない。大陸中の全てが敵。つまり、どこの国からも狙われるという事だ。 毒を盛った実行犯の背後に国があるとすれば…どこの国も当てはまる。 ワインを持ってきたのは13人の精鋭として長く国に貢献しているいちごムースだ。 彼女が毒を盛ったとは考えにくいし、本人も否定している。 いちごムースに渡したのは給仕人であるが、同じく長年スイーツ州で働く人間だ。もちろん、いちごムースも給仕人もこれから時間をかけて調べる必要がある。 魔法国が統一されて間もない時期だから、この事が誰にどのような影響を及ぼしているのか測りしれない。 全てを疑う必要があるのだ。
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