epilogue

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彼の横顔が胸に焼き付いて、とても捨てる気になれなかった秘密の手紙。 どうしようかと迷った時、自宅の本棚の中の1点に目が留まった。 夏目漱石『こころ』 読書家の父から、中学生の時に譲り受けたものだった。 物語の中の先生は、重い秘密を抱えている罪悪感に長年苦しみ、最終的には自ら命を絶つ。 愛する人には絶対に秘密知られたくないという最後の願いを残して。 読み返せば読み返すほど、願わずにはいられなくなった。 どうか、彼が誰にも明かせない秘密に押しつぶされませんように。 どうか、彼が懸命にひた隠す秘密が誰にも知られませんように。 願掛けのように、秘密の手紙を『こころ』に隠した。 2年間、肌身離さず秘密を胸に、遠くから彼を見つめてきた。 どうしても彼の姿を目で追ってしまう。 授業を受けている彼。サッカーで活躍する彼。友達としゃべっている彼。 だけど、私がいつも気にしているのは、彼の心の軋みだった。 彼の横顔を見るたびに、心の中で祈る。 どうか、笑っているのに泣かないで… 当然と言えば当然で、私はいつの間にか、彼を好きになっていた。 ・
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