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日中がどんなに猛暑になっても、夜は冷える北海道。空気中の水蒸気が夜になり凝結して細かい水滴となって霧となり、夜が明ける頃には町全体が霧に覆われ幻想的な世界となる。そんな早朝の時間帯。
『・・・♪~♪~♪~♪~♪』
枕元に置かれたスマホから着信音が流れる。当然僕は就寝中で電話に出る気もなく、夢の中で音楽が鳴っている程度の覚醒だった。だが
『~♪~♪~♪~♪~♪』
その後も着信音は鳴り続け、さすがに夢の中から叩き起こされる。
「んぅ・・・だれだぁ」
手を伸ばし、スマホを置いていたであろう場所を手探りしていると、指先にスマホの感触を見つけ、手元に引き寄せる。薄目を開けて画面に表示された電話先を見ると
「晶・・・ちゃん?」
『香合晶』という表示と左隅には『6:00』の時刻が見えた。時間帯と電話相手の因果関係を考えると、キノちゃんカノちゃんと夜通しパリピだったのかな…。
『雪』であるゆえ、相手によっては着信スルー案件だったが、晶ちゃんならば出ないわけにはいかない。
「もぉ しもし?」
『雪ちゃん カワ(・∀・)イイ!! カワ(・∀・)イイ!!』
「え は…はい」
寝起きの脳内はかわいいと言われたことに『はい』と答えてしまう。そもそも、なんでこんな早朝にモーニングコールをしてきて『雪』を褒めちぎる晶ちゃんの意図が「???」で混乱する。
『雪ちゃん 起きて』
「え ?」
『出かける準備 あと1分で着く ブツッ』
「え え!?」
晶ちゃんはそう言って電話をブチっと切った。
珍しく饒舌な晶ちゃんの矢継ぎ早の言葉に、寝起きの僕はさっきから『え』しか言っていない。必死に半分寝ぼけの頭を覚醒させるために、状況を整理する。
えっと、まずは着替えをして…
『ゴアァッ ガオッ!ガオン!!キキッ!』
「え!?な なに?」
突然外から雷が鳴ったような轟音が聞こえ、窓ガラスがビリビリと震えた。何が起こったのか分からずにいると
『ピンポーン!ピンポンピンポンピンポーン!』
間髪入れずにアパートの呼び鈴がけたたましく鳴り、玄関先に誰かが来たことを知らせる。
「うあぁぁ なに?誰?」
着替え途中でスッポンポンに近い今の状況に、初めは大事な部分を隠してオロオロしていた。だが来訪者は十中八九、晶ちゃんであると判断でき、鳴り続ける呼び鈴の中、隠すものはキチンと隠れるよう着替えを済ませてから玄関の施錠を解除するといきなり
『ガチャッ!』
「わあぁっ!」
向こうの人物がドアを開け、開いたドアから二つの黒い影が入ってきたかと思うと
『『むぎゅー!!!』』
我先にと僕を羽交い絞めにしてきた。
「ウチの勝ちー カノ遅ーい」
「ヽ(`Д´)ノムキー!(-_-)/~~~ピシー!ピシー!」
僕の胸に顔をうずめ勝どきの声を上げているのは晶ちゃんで、その脇で悔しそうに晶ちゃんをポコポコ叩いているのは、造型師の『カノ』ちゃんだった。
「ど どうしたの…二人とも」
相変わらずのポコポコバトルをする二人に声をかけると、見合った二人は僕の方を向き、こう言った。
「「遊びに行こ」」
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