それぞれの夏(雪)

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『ガオッガオン!!ゴアアアアッ!』 「ひぃぃぃぃっ」 情けない声を出しているのは当然僕。なぜなら絶叫系に弱いから。して、今僕はどこにいるかというと…  「雪ちゃん ウチがギュウするから心配ない」  「アキ 無理 ペタペタ ( ・ω・)ノノ 」  「ンダトデブ (゚Д゚)ゴルァ!! 」  「(((ꎤ’ω’)و三 ꎤ’ω’)-o≡シュッシュ」   「二人ともケンカしないの~」 と僕の座る両隣で火花を散らしている晶ちゃんとカノちゃん。そして二人をたしなめる運転席のキノちゃん。僕はあの後晶ちゃんとカノちゃんに拉致られ、キノちゃんのスポーツカーの後部座席に3人がひしめき合って座っている、という状況だ。  「雪さーん 狭くてごめんなさいねー 二人ともどうしても雪さんと座りたいっていうから」 「いえ、それほど狭くはないんですけど…」 僕としてはキノちゃんのドライビングにツッコミを入れたい。 ちなみに、僕が今乗っているこの車は以前の赤い羽根馬ではなく、チンスポイラーにコブラのエンブレムが際立つ、フォードマスタングシェルビーGT500というアメリカ車。5.8リッターV8エンジンスーパーチャージャーを搭載し、最高出力760馬力という僕の軽自動車の10倍以上の馬力を持つモンスターマシンだ。全長は5メートル弱で車幅も1.8メートルと広く、アメリカンサイズの車なのだから、当然小っちゃい3人が座っても全然余裕がある。  そのポテンシャルを余すことなく駆使しているキノちゃんのドライビングをこの車を作った人々が見たら称賛の嵐だろうけど、発進・停止・右折・左折するたびに前後左右へG体験をこうむる同乗者としてはたまったものではない。 先日の一夏といい、キノちゃんといい、今の僕って『車難の相』なのか…。 そんな車難の相も市内の入り組んだ地形から広大な北海道のミルキーウェイに移行したことで、絶叫マシーンからは少し解放された。 「ところで、今日はどこに行くの?」 話せる余裕ができた僕は、そもそもの拉致られた目的について聞いてみる。  「あ うと…」 誰ともなく聞いた僕の質問に、晶ちゃんと左右対称にピトっとくっついていたカノちゃんがいち早くレアな発声をしたかと思うと  「遊びに行く!」 晶ちゃんがカノちゃんの声にかぶせるように答えた。これにはカノちゃんもショックだったようで  「Σ(゚д゚lll)ガーン」  「カノより先に言った うぇーい(/・ω・)/」  「ムカァパァンチ(●`Д´)=O)゚Д゚)ギャァ」   で例によって  「「ポコポコ(o`・ω・´。)ノ☆\(。`・ω・´o)ポコポコ」」 僕を板挟みに譲れない戦いが始まった。これは聞く相手を指定しなかった僕が悪いのかな。  「雪さん 気にしないでください 二人ともいつもこんな感じなんで~」 キノちゃんも直線道路で話せる余裕ができたのか運転席越しに後ろで板挟みになっている僕を気遣ってくれた。 「えと …キノさんと呼んでいいですか?」 回想ではチャン付けしておいて、いまさらかもしれないが一応会うのは2回目だし、さほど会話も重ねていないから念のため聞いてみる。  「いやいやいや 私の方が年下なんですから 気軽にキノと呼んでください 。私は雪さんとお呼びしていいですか?」 見た目とは裏腹に気さくに返事をしてくれるキノちゃん 「じゃ じゃあ 私の事、雪ちゃんと呼んでくれたら 私もキノちゃんて呼びます」 自分に『ちゃん』呼びを強制するのもおかしいが、キノちゃんとの距離が縮まるならと多少おどけながらキノちゃんに聞いてみる。  「ふふっ じゃあ 商談成立!ということで 雪ちゃん♪ヨロシクです」 「うん こちらこそ よろしくね キノちゃん」  「「ムゥー( ˘·ω·˘ )( ˘·ω·˘ )ムゥー」」   気づくとケンカをしていた晶ちゃんとカノちゃんが仲良くふくれっ面をしていると思ったら  「『晶ちゃん』って呼んで!」  「・・・『カノちゃん』」 と今度はキノちゃんに嫉妬したんだか、自分の名前を呼称するよう駄々をこね始めた。 そして僕は公平に晶ちゃんとカノちゃんの名前を頭ナデナデ付きで呼んであげ、二人ともご満悦だったとさ。
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