61人が本棚に入れています
本棚に追加
車は旭川方面に向かっているらしく、見慣れた景色が2倍速で後方へと消えていく。外を見てしまえば、スピードを体感せざるを得なくなるため、僕は晶ちゃんたちとのトークに花を咲かせていた。
「へぇー カノちゃんって 高校の時点ですでに才能が開花してたんだ~」
「う・・・ (〃ノдノ)テレテレ」
カノちゃんは顔全体が真っ赤になっている。ただ、褒められたことがうれしいのか、ピトッと僕にくっつく力がより強くなった。
「でも その時は 趣味レベル 事業レベルになったのは キノのおかげ」
晶ちゃんが言葉少ななカノちゃんのフォロー役に回ると、キノちゃんも話に加わり
「あ~ アタシ ダンス系ユーチューバーだったんですけど、一度お姉ちゃんの特殊メイク姿で配信したら これまたバズっちゃって~」
なんでも動画配信を見た人の中には、ハリウッドで造型を手掛けた人もいたらしく、高校卒業後に自分のところで働かないか?とオファーまで来たくらいだったそうだ。
「でも お姉ちゃん この通り人見知りでしょ。だから初めはホームページを開設して、そこからネット注文で個別に受注を受けてたの」
そうしていくうちに技術の高さが口コミで広がり、またキノちゃん自身をモデルにした特殊メイクの動画配信がシリーズ化し、それも高評価になった事や、さらにキノちゃんのマネジメント能力も手伝って、あっという間にベンチャー企業にのし上がったらしい。うらやましいくらいのサクセスストーリーだ。
「それだと… そうとう忙しいんじゃない?」
高級スポーツカーを乗り回すくらいの収入なのだから、おのずと仕事は次から次へと降りかかるはず
「マジきついですよ!休みとれたのだってほぼ1年ぶりくらいだし、明日には、また東京で仕事ですし…」
キノちゃんの愚痴ともとれる言葉に、くっついていたカノちゃんの身体が反応する。
「今度 仕事 イヤ」
「あ~ また でた 姉ちゃんの いやいや(つд⊂)エーン」
カノちゃんの吐いた言葉はキノちゃんにとって日常茶飯事なのか、運転中なのに両手を空に上げ、お手上げポーズをした。そのキノちゃんの言葉と行動にカノちゃんも譲れないものがあるのか、僕への抱擁がより強くなる。ちょっとピリピリした雰囲気になってきたな…。
「カノちゃんは東京のお仕事がイヤなの?」
「(゚д゚)(。_。)ウン」
具体的な中身は晶ちゃんが教えてくれたが、なんでも映画の造型の仕事らしく、とにかく監督やら偉い人が細かく注文を付けてくるらしく、それがカノちゃんにとってはイヤらしい。
「映画のお仕事は実入りがいいんだからガマンしてよ」
「あう… ほか いる」
「選り好みしてたらお客さんいなくなるよ!」
簡潔すぎるカノちゃんの言葉もさすがに僕の読解力では限界だった。すると傍らの晶ちゃんが 「カノじゃなくても ほかにする人 いっぱいいる だって」とひそひそと教えてくれた。語尾の強くなったキノちゃんのセリフ以降、二人は黙ったまま、車内に重たい空気が包み込む。
うぅ 気まずい・・・なにか話題を変えた方が… !
「あ~ そういえば~ 二人と晶ちゃんの仲良くなったきっかけがしりたいなぁ~ あと~ これから どこにいくのかなぁ~」
わざとらしい言葉遣いで、自分としてはグッジョブな3人に共通する話題を振ってみたところ
「|д・)チラッ「(*・ω・)チラッ「(・ω・*)チラッ」」」
3人はほぼ同時にお互いの顔を見合わせたかと思うと
「「「なーーーいっしょっ!」」」
と声を揃えて返してきた。僕としてはもう少し会話が膨らむものと思っていたんだけど、さも打ち合わせしたかのような返答と、一人だけハブられた感じがして、なんだかモヤモヤした。
「えーーー 教えてよぉ ケチ―(´・ε・`)ムー」
「「「カワ(・∀・)イイ!!」」」
頬を膨らませてふくれっ面をする僕を見て、3人とも笑顔になってくれた。まあ雰囲気が和らいで良かった。するとキノちゃんが
「場所は行ってのお楽しみですっ!峠に入りますからね~ しっかりつかまってくださいよぉ」
そう言い終わると同時にアクセルを踏み込み、直線でおとなしかったV8エンジンが『ガオオッ!』という咆哮とともに目を覚まし、先ほど味わった前後左右のG体験と
「い いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
僕の絶叫が人気のない峠道にこだました。
最初のコメントを投稿しよう!