それぞれの夏(雪)

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『スリスリ』『スリスリ』 「んっ う~ん」 いつの間に眠って(失神?)しまったのか、僕の右と左の頬を交互に何かが触れる感触で目が覚めた。  「起きた」  「~~~ヾ(^∇^)オハ♪」 目の前には晶ちゃんとカノちゃんがどアップでおり、おそらく二人交互に頬ずりでもしていたのだろう。まるで懐かれた猫のようだ。 「… つ 着いたの?」  「(゚д゚)(。_。)ウン」 カノちゃんからの返事で、言われてみれば暴力的なV8エンジンの音は止まっており、僕は深く座っていた身体を起こし、窓越しに外の景色を見てみる。 周りは開けた場所で、一見して駐車場である事が分かる。 「ここ・・・ どこ?」 道中休憩が入ったり、スヤァ(失神)も入ったりで、ぶっちゃけどこらへんまで移動してきたのか分からない。ただ、自宅を出たときは朝靄がかかる時間帯だったのが、今は朝とは言えないくらいに太陽は高い位置まで登っていた。 僕の問いに、3人とも答える事無く  「それじゃ いきましょ~」 キノちゃんの言葉で、晶ちゃんとカノちゃんが僕の腕を引っ張り、車の外へといざなう。車の外は朝の透き通った空気を少しだけ残しているものの、一応は夏らしい太陽の暑さが身体を包む。 「んっ んぅぅぅぅぅぅ」 車内で凝り固まった身体を目いっぱい伸ばし、改めて周りの景色を見てみると、広大な駐車場の先に、これまた大きな施設が何か所か見える。 (モールみたいな複合型の施設かな…) これと同じような風景をつい先日旭川で見た。ただ、その場所ではない事は分かる。旭川のはショッピングモールとジャバジャバの2か所だったが、今見える景色には少なくても4か所は大きな施設がある。規模が段違いだった。 今日はここでショッピングとかするのかしら… それはそれで僕も嫌いではない。一応は『雪』であるし、晶ちゃんたちと一緒に服を見て、あわよくば女性視点で(特にキノちゃんから)服を選んでもらえたらありがたい。正直なところ、自分のファッションセンスに自信がない。買うにしても店員さんにコーデを頼んだり、ネットでモデルさんが着ている全身セットをそのまま買うように今まではしていた。晴ならどんなにダサい格好だとしてもへっちゃらなのだが、こと『雪』となると滅多に外へは行かないが、周りの目線が気になってしょうがないのだ。 なんというか…自分だけど自分ではない『雪』という存在を僕は『借り物』と認識している気持ちが強く、その『評価』を下げたくないのが僕の本心かもしれない。 いつか誰かが『雪』という存在を覚えていて、万が一その人から『ダサい格好の人』と印象付けられ『雪』が心に傷を負うことが無いように、キレイな『雪』のままでいさせてあげたいというのが掛け値なしの僕の気持ちだった。  『ピトッ』  『ピトッ』 移動している間も僕の両腕には、助さん格さんならぬ晶さんカノさんが引っ付き虫のように離れずにいる。少し前をキノちゃんが先導するように歩き、さながら要人警護のような布陣のまま移動を続ける。 駐車場から建物の側面に沿って玄関先へ通じる角を曲がると、大きなエントランスが見えた。 「なになに… AQUA RESORT バチャバチャ?」 入口の屋根のところに大きい看板があり、そこにはローマ字とカタカナでそう書いてあった。 ジャバジャバ?バチャバチャ?・・・なんか似たようなフレーズだけど 「晶ちゃん・・・ここって?」 おそらく目的地の意味を知るであろう当人の一人に聞いてみた。すると晶ちゃんは、明らかに意図的に顔をサッと背ける。怪しい・・・。 きっと反対隣のカノちゃんに聞いても同じ反応だろうと思った僕は 「キノちゃん ここは いったい…」 背中越しにキノちゃんに聞いてみたところ、キノちゃんは足を止め、振り返りながらこう言った。  「プールです!みんなでリゾっちゃいましょう!」
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