それぞれの夏(雪)

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「いぃぃやだぁぁぁぁぁ 帰るぅぅぅ!!」  アクアリゾート バチャバチャの前で、さながら歯医者を嫌がり車に戻ろうと駄々をこねる子供みたいな『雪』の僕。  「よしよしヾ(・ω・`)」 カノちゃんはしきりに僕の頭をなでなでしてくれているが、僕が駄々をこねる真意は分からないだろう。その時一瞬は癒されても根底の拒否は変わらない。 だって…まさかの前回に引き続いてのプール遊びだと!?しかも『雪』で!?どおりで誰も行き先を言わないわけだ。そして首謀者の晶ちゃんは顔を背けるし…。晶ちゃんはカノ・キノちゃんにどんな情報操作をしたのか。 とにかく!僕は『水着』を着る事を断固として拒否したいがために駄々をこねていた、というわけだ。  「雪ちゃん 観念する」 晶ちゃんも僕がこういう反応をすることは想定していた、と思う。クールな表情と簡潔な言葉がこういう時はどこかしら威圧的に感じる。 「だ だって なんにも持ってきてないよ!水着だって着替えだって」  「抜かりない」 ぬかりないって… その用意した水着がどんなハレンチなものであるかもツッコミたいところだけど、それどころじゃないイヤがる理由がもう一つ 「だ だって・・・」 だって男の僕が…、と言いそうなところをカノ・キノちゃんがいる手前で寸でのところで止めた。そしてカノちゃんに先に行ってと伝えた後、二人に聞こえないよう晶ちゃんと話し合う。 「二人とも僕が男だって知らないんでしょ?マズイよ」 僕としては核心的な話をしたつもりなのだが、当の晶ちゃんの表情は『(・・?』で  「無問題(もうまんたい) 雪ちゃんだし ウチも平気」 中国語の問題なしを織り交ぜて平気の平左、ときたもんだ。確かに『雪』で女の子ではあるけれど、僕は根本の事を言っているのである。 「い イヤイヤイヤ 僕は大問題(!) 女子更衣室だよ? そ その… ほかの女性とかここのみんなと着替えなんて…」  「(*´ω`*)んー 見られて減るもんじゃなし 雪ちゃん気にしすぎ」 「いや 晶ちゃんはもう少し気にしてよぉ!」 晶ちゃんが剛毅なのか、僕が繊細過ぎるのか…なんだか僕の方が乙女チックにすら感じる。その後も晶ちゃんは折れる様子は一切なく、話は平行線のまま  「どうしたの~ 早く行こうよ」  「щ(゚Д゚щ)カモーン」 しびれを切らしたキノちゃんとカノちゃんから催促の言葉が出たところで  「不自然だけど トイレで着替える。それならおk?」 晶ちゃんから行くことを前提にではあるが僕が譲歩できるような提案が出される。僕自身も「帰る」とは言いつつも、こうして誘ってくれた3人へ断った時の悲壮感等の心情を鑑みれば、行かないという選択肢はほぼ皆無ではあった。 「う… そ それか 着替える時間ずらしてくれるとか…」 僕なりに考えた妥協案は、まずは3人に着替えてもらって、他の女性が居ないタイミングで僕が着替える、という策。それなら何とかいけそうな気がした。  「(゚д゚)(。_。)ウン それで いこう」 「そ それで 水着っていうのは あの」  「それは 見てのお楽しみ 二人待ってるから 行こう」 晶ちゃんはそう言うと、カノ・キノちゃんのもとへ僕の手を引っ張る。その顔は微笑しており、僕が行くことに了承した事を喜んでいるようだった。
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