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「おはようございま~す」
お店の勝手口を開け、僕は誰にともなく挨拶をする
『おはよう』と言うには昼をとっくに過ぎた時間で違和感を覚える人もいると思う
でも
飲食業などの営業時間が深夜にまで及ぶ職場は、勤務する人間のシフトが早番・遅番と幅広くなる
だから時間に関係なく、その日初めて会う時の挨拶として『おはよう』は適当だとも言える
時間は2時を回ったところで、店も少し落ち着いた雰囲気になっていた
僕はまっすぐスタッフルームへ向かい、自分のロッカーを開けて仕事着へ着替える
ちなみに服装は白いYシャツにキャメルカラーのスラックスズボンとベスト
服装は悪くないんだけど…サイズが合わない
店長には合うサイズを頼んではいるんだけど…決まって店長はこう言うんだ
「サイズの合う服が来るまで女性用の服着てたら?」って
丁重にお断りしているが、会う度に店長の常套句になった
今日も言われるんだろうな…
ため息をつきながら僕はロッカーの扉を閉めると、ホールへと足を運んだ
繁忙期が落ち着いたホールはスタッフも入れ替わりに休憩に入っていて2~3人が残っている程度だ
パートのオバちゃん達に愛想笑いをしながら挨拶を交わす
でも僕の意識は一人の女性を探すのに夢中だった
しばらくカウンターからホール全体を眺めていたが、なかなか目当ての人を見つけられない
もしかしたら早番で休憩に入っているのかな…
そう思って意気消沈気味に仕事を始めようとしたところだった
『ツンッ!』
「わあっ!?」
突然後ろから横っ腹を指で刺され、僕は思わず声を上げ後ろを振り返る
そこに居たのは
「お早っ 晴クン」
僕の憧れの人
『御坂部 霧(おさかべ きり)』だった
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