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「どうしたの?誰か探してた?」
悪戯っぽく笑う彼女
その笑顔に僕の心はキュンとなる
「いた…」
「え?何か言った?」
心に思った事が思わず声に出てしまったらしい
僕はあわてて弁解する
「い いや ホールの混み具合をちょっとチェックしてただけだよ」
「ホントに~? キレイな人でも探してたんじゃないの~?」
「ほ ホントだって!」
まさかキミを探してた、とはとっても言えない
疑いの眼差しで僕を見る彼女に僕は話題をそらす
「あ…御坂部も今出勤なの?」
「そうだよ 晴クンも?」
「うん…」
本当は目一杯嬉しいのを気付かれないように抑えめに返事をする
「そっか
綺麗なお客さんに見とれちゃダメだよ
見つけたらお姉さんがツンツンしちゃうゾ」
そう言うと彼女は僕のおでこを人差し指で軽くツンと押す
学年は僕と同じで、1浪している僕の方が年上なのに、まるでお姉さんのように振舞う彼女
それは彼女が僕よりバイトを始めたのが早かった事や、彼女は僕より身長が大きく、僕が弟みたいに幼く見えるからだろう
いつでもあねご肌で僕に接してくる彼女
でも…僕は嫌じゃない
『ピンポーン』
突然チャイムが鳴った
お客さんがスタッフを呼ぶ合図だ
「あ!はーい 伺いま~す!
じゃ晴クン 今日もヨロシクね」
彼女はそう言うとホールの方へと消えて行った
行ってしまった…
もっと話していたかったなあ…
切ない思いで彼女の後ろ姿を見えなくなるまで見ていた僕だったが、真面目に働く彼女を見習い彼女の後を追うようにホールへと足を進めた
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