葵

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「―――て、言うかさ…」 沈黙を破ったのは夏音だった。 「聞いてなかったけどさ、何所に向ってるの?」 とりあえず、あのままだとどうなるか分らないから葵に付いてきたのだ。 葵も行き先など何も言わなかった。 だから気になったのだ。 葵はキョトンとした顔で見下ろす。 「言ってなかったか?」 言ったつもりだったのだろう…。 まぁ、人というものは大概そんなものだ。 「いや、聞いてないし」 「すまぬ。言ったつもりだった。」 (うん、そう言うと思った) 心の中で呟く。 「言ってなかったか?」と言う人の次の言葉は 「言ったつもりだった」なのだ。 余程、真面目な人ならこんな言葉は出ないだろう。 「別に謝らなくても良いわよ。で、何所に行くの?」 気になって仕方ない。 葵のことだから、変な場所には行かないと思う。 出会って間もないが、人を見る目はあるほうだ。 葵は変な人じゃない。 何故か断言出来る。 そんな事を思っていると、葵は困った顔をしながら言う。 「俺は“ある人物”に仕えている」 “ある人物”とは誰なのだろう? 「って言うか葵、仕えてるって…葵は何処かの重役とかなの?!」 驚き半分、不安半分。 正直に言えば、不安の方が驚きよりも数倍ある。 顔が暗くなる夏音を見つつ葵は 「仕えていると言っても、殿様とかではないぞ」 「……え?そうなの?」 (なぁんだ、殿様じゃないなら少しは安心出来るかな…) なんて心の中で呟いていたが、葵の言葉で安心どころか ますます不安になる。 「仕える…とは少し違うかもしれんが…  俺が居るのは“新撰組”だ。」
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