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そのとき。
「……っ!!き、来たっ!?」
カツ、カツ、カツ――――――
男の後ろから響いてくる、革靴のような足音。
男はその足音の主から、逃げていたのだ。
否、それだけではない。
コッ、コッ、コッ―――――――
カツン、カツン、カツン―――――――
最初に響いてきたものの他に、2つ。男のいる場所に向かって、別の足音が響いてくる。最初の足音と違うのは、一つは同じ革靴だが、種類が違うらしく、鈍く低い音がするということ。
そしてもう一つはヒールのような硬めで軽い音から、おそらく女性であるということだ。
「ひっ、ひぃぃ……!?」
男は先ほどよりもさらに恐怖に顔を歪め、どうにか逃げおおせることができないかと無駄な抵抗を始める。
凹凸の無いコンクリートの壁面を登ろうと爪で引っかいてみたり、蹴破れないかと思いっきり蹴ってみたり。当然無駄なあがきであり、超能力の一つも授かっていない男では打破する策など無いのだが。
そんなことをしている間に、3つの足音は確実に男に近づいてくる。男はあまりの恐怖に気絶してしまう寸前にきていた。
やがて男の目に、明かり一つ無い暗闇から、3つの人影が見えてくる。一人は痩せ型、もう一人はかなり体格のいい男。そして一人はやはり背格好から女性のようだ。
3人はゆっくりと、わざとらしく男に迫る。まるで恐怖心を煽っているかのように。
「くっ、来るなぁ……来るなくそったれぇ!!」
男は狂ったように叫びだす。もはやどうにもならない、自分の絶望的な状況を認めたくないためか、目を血走らせて力の限り叫ぶ。
しかし足音は止まらない。人影は止まってくれない。
「はっ、はぁぁっ!!くそぉっ!何だよっ!!お前ら何なんだよぉ!?」
そして、男の1m先で、3つの人影はようやく止まった。
一瞬安心してしまった男だが、見えてしまった人影の一つ―――――若い青年―――――の顔に、さらに恐怖に引きつることになってしまった。
嗤っている。
純粋に笑っているのではない。ただただ人を見下し、嘲り、男を人間としてみていないような、嗤い。
いったいどれだけ自分を優位に立てれば、あるいは立っていれば、これほど醜悪な嗤い方が出来るのだろうか。男には当然、青年の過去など想像もつかない。
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