序章

3/6
前へ
/15ページ
次へ
そのとき。 「……っ!!き、来たっ!?」 カツ、カツ、カツ―――――― 男の後ろから響いてくる、革靴のような足音。 男はその足音の主から、逃げていたのだ。 否、それだけではない。 コッ、コッ、コッ――――――― カツン、カツン、カツン――――――― 最初に響いてきたものの他に、2つ。男のいる場所に向かって、別の足音が響いてくる。最初の足音と違うのは、一つは同じ革靴だが、種類が違うらしく、鈍く低い音がするということ。 そしてもう一つはヒールのような硬めで軽い音から、おそらく女性であるということだ。 「ひっ、ひぃぃ……!?」 男は先ほどよりもさらに恐怖に顔を歪め、どうにか逃げおおせることができないかと無駄な抵抗を始める。 凹凸の無いコンクリートの壁面を登ろうと爪で引っかいてみたり、蹴破れないかと思いっきり蹴ってみたり。当然無駄なあがきであり、超能力の一つも授かっていない男では打破する策など無いのだが。 そんなことをしている間に、3つの足音は確実に男に近づいてくる。男はあまりの恐怖に気絶してしまう寸前にきていた。 やがて男の目に、明かり一つ無い暗闇から、3つの人影が見えてくる。一人は痩せ型、もう一人はかなり体格のいい男。そして一人はやはり背格好から女性のようだ。 3人はゆっくりと、わざとらしく男に迫る。まるで恐怖心を煽っているかのように。 「くっ、来るなぁ……来るなくそったれぇ!!」 男は狂ったように叫びだす。もはやどうにもならない、自分の絶望的な状況を認めたくないためか、目を血走らせて力の限り叫ぶ。 しかし足音は止まらない。人影は止まってくれない。 「はっ、はぁぁっ!!くそぉっ!何だよっ!!お前ら何なんだよぉ!?」 そして、男の1m先で、3つの人影はようやく止まった。 一瞬安心してしまった男だが、見えてしまった人影の一つ―――――若い青年―――――の顔に、さらに恐怖に引きつることになってしまった。 嗤っている。 純粋に笑っているのではない。ただただ人を見下し、嘲り、男を人間としてみていないような、嗤い。 いったいどれだけ自分を優位に立てれば、あるいは立っていれば、これほど醜悪な嗤い方が出来るのだろうか。男には当然、青年の過去など想像もつかない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加