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視線を先にそらしたのはいっちゃんだった。
「くそっ。何なんだよ、お前がそんな目で、俺を見るようになるの初めてなのに、この状況って」
自分の目は自分では見えなかったけど、いっちゃんの瞳の中に写った私の表情は、切望でいっぱいだったと思う。
「何もかも放り出して、二人で逃げ出したくなる」
「そんなのいっちゃんらしくない。それに、私たち悪い事なんか一つもしてないのに逃げ出すなんて間違ってる」
「分かってるよ。いってみただけだ」
ううん。いっちゃん。私だって、逃げ出したいよ。一緒にどこまでも。
でもそんな事いっちゃんには似合わないし、いっちゃんだってそんな自分、嫌になる。
それに、私、仕事を放り出す事できない。ナツコさんの前で心の中でたてた誓いは、決して破れない。
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