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野球部の終了時刻はどの部活よりも遅く、下校時間は八時を越えるのが普通だ。その中でも一年は最後まで雑用や片付けをこなしているため、一年が帰る頃には二、三年の半数が下校している。今週はまだ仮入部期間だが、運動部には体験入学や春休みから参加している生徒が多く、部活動編成が行われる前から正式な部員としての扱いをすることが暗黙の了解となっている。今日も、一年と、二年の何人かが片付けを終えて下校する準備をしている。身支度を終えて帰っていく部員が出て来る中で、一色も二年に挨拶をして部室棟がある第三校舎を出ようとしていた。
「待て、一色」
「なに?じゅんじゅん」
「じゅんじゅんって呼ぶんじゃねえ。口縫い付けんぞ」
「やだ、純君こわーい!鬼畜!」
中学時代に使用していた一色の白地に青のラインが入ったエナメルと、山本の黒のエナメルが横に並ぶ。
部室棟を抜ければ、第三校舎と第二校舎の間に中庭があり、そこを過ぎれば駐輪場がある昇降口前に出る。歩いて一分もしないその距離が、疲れた身体には少しだけ長く感じた。
一色は山本が何か言いたげにしているのに気付いていた。しかし山本は駐輪場にたどり着いても口を開こうとはせず、これは自分から何か話題をふるべきなのか、と悩む。
二人は春休みから練習に参加しているが、出身中学は違う。入学式を迎えてから参加している一年同士に比べれば交流もあり、仲の良いほうではあるが、お互いの本質が分からない今はまだ、「同じ野球部」程度の仲だと言えるだろう。
「お前さ、本気だったのか?」
山本がやっと口を開いたのは、自転車に乗って正門を通り過ぎた後だった。
「何が?」
「マネージャーのこと。お前だって、先輩から聞いただろ」
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