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斜め後ろを走る山本の視線が背中に突き刺さる。しかし一色はそんなこと気にも留めない様子で、聞いてるよ、と一言返した。
王崎商業野球部は、昨年からマネージャーを募集していない。二年前の三年と一年だったマネージャー、そして当時の部長が起こした悶着が原因だと二年生がこっそりと教えてくれたのは、春休みに入ってすぐのことだった。悶着、と一言で片付けられたのは、恐らく自分たち首を突っ込んではいけない理由があるからだと、その場にいた一色や山本たちはすぐに察した。だからそれ以上のことを二年、ましてや三年に聞くことは無かった。マネージャーがいなくとも部活は成立する。少し一年の仕事が増えるだけだと言う、二年の纏め役である芦屋の意見は最もだった。
「確かに俺も、芦屋さんの言う通りだと思うよ。確かにマネージャーがいるかいないかなんて学校それぞれだし、その影響も人によって違う。」
「…じゃあ、なんでだよ」
「なんでかなあ。なんかこう、神のお告げ的な感じかも」
「……それってつまり」
運命ってことか。そう山本が小さく口にした瞬間、一色は吹き出すように笑い声を上げた。通り過ぎる人が、急に発された笑い声に何事かと振り返る中、山本は顔を真っ赤にして一色をどなりつける。
「てめえ! 笑ってんじゃねえぞこらあ!!」
「だって、運命ってさー! じゅんじゅんの純はー純粋の純―!」
適当な歌を口ずさむ一色の背中に平手打ちが入る。
「いって!!」
「調子に乗るなよ一色ぃ……」
声の低い山本の声が更に低くなる。鋭く突き刺さる視線に、一色は頬を引きつらせた。叩かれた背中は骨の奥まで振動が響いてまだ治まらない。流石投手の腕力だ、と心の中で感心しながら、グラウンドに二人で向き合って立つ姿を想像すると、高揚感でいっぱいになる。明日が待ち遠しい、そんな風に思うのは久しぶりだと一色は頬を緩ませた。
山本が後ろからぶつくさ言うのを適当に流しながら自転車を漕いで数分、商店街や駅前の通りを抜けて、それぞれの家への分かれ道にたどり着く。
「じゃあ気をつけて!」
「……おう」
山本は苦虫を噛み潰したような表情でじゃあな、と青になった信号機を確認して右に曲がっていく。その後ろ姿を途中まで見届け、一色も帰路についた。肌に感じる風が少しだけ冷たさを増したが、不思議と寒いとは感じなかった。
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