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「帰宅部の中で、一番まともそうだったからです。活動内容も想像つくし」
「まあ、そうだろうな」
「……一色君の気持ちは嬉しいですが、私は野球部に貢献できる自信がありませんし、そんな風に自分が思っているのに中途半端な気持ちで入りたくないので、お断りします」
「そうか……。でもなあ、ここ二年間正式なマネージャーのいない野球部部長の前川が勧誘を許可してるのに勿体無い気がするよな。あ、知ってるか?ここの野球部にマネージャーがいないって」
菅の言葉に、琴は首を傾げた。マネージャーがいないことに驚いたのではない。部長公認という言葉の意味が理解できなかったのだ。毎年甲子園に出場しているような強豪校が選手に対し入部テストのような物を設けているなどという話はたまに耳にするが、マネージャーの入部に関する事情はさっぱり分からない。初心者から受け付ける学校もあれば、ルールや簡単なテーピングの仕方など、ある程度の知識が求められる学校もあるだろうが、部長の許可が必要な場合など存在するのだろうか。いや実際に一色は部長に許可を得て琴を勧誘したと菅は言っている。何か特別な事情でもあるのか。ならば尚のこと、自分のような人間が入るべきではない。琴はさも興味がないような表情で口を開いた。
「ともかく、私は家庭科部にしますので」
「……そうか。残念だな」
肩を落とす菅を見ていると、悪いことをしてしまったような気がしてならなかった。何故部活動を決めるだけでこんなに深刻にならなくてはならないのだろう。職員室の真ん中という逃げ場のない空間は、明らかにそれを助長していた。
「引き止めて悪かったな。気を付けて帰れよ」
琴の居心地の悪そうな表情に気づいたのか、菅はにこやかに手を振りながらそう言った。軽く頭を下げて、職員室の出口に向かっていく途中、菅がどんな表情をしているのか気になったが、振り返る余裕などなく、徐々に早足になる。
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