第3話

6/7
前へ
/7ページ
次へ
田舎は交通手段が驚くほど少ない。電車、バスは一時間に一本が当たり前であるため、市外から通う生徒は交通機関と交通用具を併用することが多い。琴の自宅は、まず学校から歩いて一〇分。バスに乗って十五分。歩いて五分。という少々面倒な経路ではあるが、小学校も中学校も歩いて三〇分以上の道のりだったため、特に苦ではない。 「ただいまー」 「お帰り。部活ないとやっぱり早いね。琴がこの時間に帰ってくるのまだ慣れないな。」  玄関で靴を脱いでいると、母である里子の声が聞こえる。どうやらキッチンで夕食の準備をしているらしい。リビングに入って一度鞄を置くと、雪崩れ込むようにソファに腰掛ける。 「そういえば今日までだったでしょ。結局何部にはいるの?」 「家庭科部にしたよ。高校から他のスポーツ始めるのもなんか億劫だし」 「まあ、小学二年生から続ければそうなのかも知れないね。でも、家庭科部って活動あるの?」 「うーん。月に一度くらいかな」  そっか、と小さく言う里子は少し寂しそうだった。それもその筈だ。小さい頃から地元のスポーツ少年団に入って、平日の夕方とお盆・正月以外の休日という、家族との交流時間をほとんど割いて練習に明け暮れていた生活に比べ、部活に参加しない学生はかなり時間を持て余す。里子は泊りがけの家族旅行にいけなくとも、休日に一人になっても、時々差し入れを持ちながら練習を見に来てチームメイトの母親や監督・部活動の顧問と話したり、遠征に車を出したり、大会の応援をしたりするのをとても楽しみにしていたのだ。 「そっか。何だか寂しくなっちゃうね」  顔を見ていないのに、里子が寂しそうに笑う表情が想像できる。部活動は親の楽しみのためにやるものではないが、喜びや悲しみを共感することは大切だ。そして里子は子どもであるという贔屓目を抜きにしてもそれが上手である。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加