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春の生微温い風が吹きなでる多摩川沿いの甲州街道を妙な青年が江戸へと歩いていた。
妙というのは、その青年は背に「石田散薬」と幟をつけた葛箱をかついでいて、一見ただの薬の行商人に見えるのだが、腰に木刀を差し、剣術道具を葛箱にくくり付けているのである。
五尺四寸ほどの小柄な体で、漆のようにつややかな黒髪を頭の上で一つに結い、色白で整った顔立ちに切れ長の涼しい目元、なかなかの色男ぶりであった。
しかし、そんな容姿とうらはらに根っからの喧嘩好きで、触るとトゲの刺さる茨のようだとして「バラガキ」と近隣の村々に名が通っていた。
そう、この今の様に。
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